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EQ2|調査研究概要

研究計画概要

I.研究課題

1.研究課題
キャリア・職業教育による高等教育の機能的分化と質保証枠組みに関する研究
文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)(課題番号:25245077)
(https://kaken.nii.ac.jp/d/p/25245077/2013/1/ja.ja.html)

2.研究期間
2013年4月~2018年3月

3.研究代表者
吉本 圭一(九州大学大学院人間環境学研究院 主幹教授)

4.研究組織 (研究組織ページ参照)
研究分担者21名、連携研究者12名、国内研究協力者6名、海外研究協力者 9名

II.研究目的

(1)研究目的の概要

本研究は、ユニバーサル化し第三段階教育として位置づけられる現代日本の高等教育システムを対象として、非大学型・大学型のセクター間での、またセクター内での機能的分化に注目し、1.学位プログラム/カリキュラムにおける職業統合的学習などキャリア・職業教育の位置づけ、2.学習成果であり評価者としての卒業生とその初期キャリア、3.教職員の地位・職務・資質と教育組織、4.企業、職能団体等の学外ステークホルダーの関与という4つの次元から実証的に調査し把握する。そして、5.それらの成果を含めて機関・プログラム別の特性指標を整備して機能的分化の実態を分析するとともに、学位・資格枠組みなどの質保証枠組みや機能的分化に関わる制度・政策について、諸外国との比較をもとに総合的に探究することを目的とする。

(2)研究の背景

先進諸国の高等教育システムは、マス化・ユニバーサル化し、量的拡大とともに質的多様化が進んでいる。大学セクター拡大とともに、1970年代以後に非大学セクター等が発達し、一部で非大学セクターから大学セクターへの転換(academic drift)も進展している(吉本2011)。それは高等教育の周縁拡大と輪郭曖昧化であり、中等教育との接続に注目して「第三段階教育」としての把握が不可欠となっている。中教審46答申の種別化構想以来、今日の「大学の機能別分化」「職業実践的な教育に特化した枠組」まで、機能的分化はわが国高等教育の一貫した政策課題であるが、対応した実証的研究が不足している。日本の類型的研究は、米国カーネギー分類と同様、国立大学を頂点とする大学セクター内の、歴史的経緯と研究軸に基づいた外形的分類であり(慶伊1984)、非大学セクターを含めた、教育軸に応じた機能的類型把握は開発されていない。機能的特化でなく機能総合性(multi-versity)への期待、大学中心主義的な、またランク・序列構造への関係者のまなざしが、政策の十全な展開と学術的探究を制約してきた。
「高等教育と学位・資格研究会」では、舘(2002)や韓(1996)などの先行研究を踏まえ、科研「非大学型高等教育と学位・資格制度に関する研究」において、非大学型セクターに通底する職業教育的な機能特性に着目し、その主体・目的・方法を多次元的に探究した。この成果も一部反映された中教審「キャリア教育・職業教育」答申(2011)では、非大学型職業教育の理念型が学術志向的大学教育類型と対立的に提起されたが、大学昇格した機関にも制度イナーシアとして非大学セクター的特性の残存が想定され、キャリア・職業教育に係る機能的連続体上での分化が注目される。教育<目的>と学習成果は、卒業生調査から把握可能であり、一定の研究蓄積(大学卒業生調査:吉本2005-2008、吉本2010、吉本2012,72-90頁。短大卒業生調査:安部2007。専門学校卒業生調査:文部科学省2010。高専卒業生調査:内田2010,3-6頁、内田2011,67-72頁)はあるが、セクター・分野横断的な枠組みでのキャリア・職業教育の方向や濃淡などの機能的分化の特徴はまだ解明されていない。<方法>として、非大学セクターの特定の専門分野に焦点を絞ったカリキュラム事例研究が蓄積された。また教員についても、機関・専任教員・兼任教員調査から、資質や経験等について一定の理解が得られた。<主体>に関しては、職業教育における学習成果の質保証には需要サイドの学外ステークホルダーの関与が重要だが、非大学セクターにおいても一部の国家資格分野を除き地域・学外ステークホルダーとの公式的対話は限られ、個別の職員間や活動レベルでの実態や認識まで丁寧な把握が必要である。

(3)研究期間内に明らかにすること

本研究は、以下5つのサブテーマの解明を行う。
<G1:学習成果としての初期キャリアと評価者としての卒業生>では、大卒者対象調査を実施し、REFLEX調査や前科研(EQ科研)の短大・専門学校卒業者の調査(53機関、17専門分野)や、研究メンバーである椿らが予定している、インターンシップに焦点をあてた私大経済系調査、同じく内田らが実施した高専卒女子に焦点をあてた調査と比較する。大学教育の「遅効性」(吉本2010,37-55頁)、学生の「エンゲージメント」(小方2008,45-64頁)、組織「イノベーション」(亀野2009,25-35頁)、短大の「ガラスの天井」(椿2009,141-153頁)、「流動化」(濱中2008,107-126頁)等の仮説を比較し、それらを高等教育人材の多層化(長期蓄積能力活用型、専門能力活用型、雇用流動型)と関連づけて機能的分化の実態を把握する。

<G2:学位プログラム/カリキュラムにおける職業統合的学習などのキャリア・職業教育>は、短大・専門学校等の複数セクターが共通の人材育成に関わる教育特性探究(国家資格系、ビジネス系)を続け、業種特化型-職種特化型-広領域型という人材養成目標範囲の絞り込みと当該領域の教育方法への影響等の仮説を、大学セクターにも適用していく。インターンシップ等の経験的学習を、学術志向と職業志向とを連続体で把握する「職業統合的学習(work integrated learning)」概念枠組みで把握し、インターンシップ、資格取得の実習、サービス学習、プロジェクト参加学習、問題事例学習等を包括的に扱い、各機関/プログラムにおける位置づけ、分化を把握する。

<G3:教職員の学術性・実務卓越性・教育資質と教育組織>について、有本ら(2011,1-372頁)による大学教員調査(CAP調査など)は研究vs.教育という教員の志向性分化に注目してきたが、吉本(2009,199-215頁)や中教審は「職業実務卓越型」教員を提起した。本研究会は非大学型教職員固有の枠組みによる調査を行い、学術性、職業実務性に留まらず、教育資質、教育マネジメント能力を含む4次元の資質と能力開発の特徴を解明、兼務教員や教育組織の重要性も指摘した。それらは大学セクターにも適用可能であり、潮木の第三段階教育教員の問題提起も踏まえ大学教員調査を実施し、ガイダンス支援的機能も含めて把握・機能的分化を考察する。

<G4:企業、経済団体や職能団体などの学外ステークホルダー>については、学習成果の質保証の重要なエージェントであり、マクロからメゾ・ミクロレベルまで多様な関与のあり方がある。大学教育への産業界の要望動向の把握とともに、カリキュラム研究と対応させ専門領域別にメゾ・ミクロレベルでの人材需給、教育支援、産学連携など側面での交流に注目する。

<G5:機能的分化と学習成果の質保証枠組みに係る制度・政策研究>では、全セクターの機関・プログラム単位での機能的分化を検討するために、上記の調査結果を関連づけた多次元的な機能実態の相互関係の分析を行う。また、学位・資格枠組みについて諸外国の動向の把握は進んできたが、国内的には「キャリア段位」など政策の顕著な進展がなく、国内の制度・政策の展開を踏まえつつ、海外調査を実施し、卓越したモデルや国際ネットワークの展開について把握していく。

(4)本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

高等教育の機能的分化を、非大学セクターを含めて実証的に、またキャリア・職業教育というユニバーサル化に即した機能によって類型論的に把握し、それを多次元で把握するという点で独創的であり、第三段階教育としての高等教育システム論の確立に資する学術的意義を有する。また、カリキュラム・教員・卒業生を対応させ、主体的な学習者を育成する方法論としてのインターンシップ等の経験的学習の質を点検・評価する枠組みが明快になり、職業統合的学習という高等教育システムに広範に適用できる教育方法論の特色を明確に提示することで、教育学への学術的貢献とともに、教育機関・政策への実践的な寄与が期待できる。さらに、地域・学外ステークホルダーに対して、業種・職種等の分野に焦点をあて、直接関連する高等教育セクターや人材養成プログラムへの関心や関わりを問うことによって、抽象的な「社会人基礎力」などに還元されない当該分野にかかる期待や評価、公式的な連携にとどまらない実態としての交流を把握し、それらを通して高等教育の質保証に関わる地域・学外ステークホルダー論の新展開が期待される。

参考文献

安部恵美子編,2007,『短期大学卒業生のキャリア形成におけるファーストステージ論的研究』.
有本章編,2011,『変貌する世界の大学教授職 (高等教育シリーズ)』玉川大学出版部.
内田由理子,2010,「高専卒業生の調査研究―女性技術者のキャリア戦略―」『日本高専学会誌』vol.13,No4,3-6頁.
内田由理子,2011,「高専を卒業した女子学生のキャリア形成」『工学教育』,vol.59,No.3,67-72頁.
小方直幸,2008,「学生のエンゲージメントと大学教育のアウトカム」日本高等教育学会『高等教育研究』第11集,玉川大学出版部,45-64頁.
亀野淳,2009,「仕事における大学教育の有効性と学生時代の学習熱心度の相関に関する定量的分析-北海道大学における卒業生へのアンケート調査の分析結果を通して-」『高等教育ジャーナル-高等教育と生涯学習-』北海道大学高等教育機能開発総合センター,第17号,25-35頁.
慶伊富長,1984,『大学評価の研究』東京大学出版会.
舘昭,2002,『短大からコミュニティ・カレッジへ-飛躍する世界の短期高等教育と日本の課題』東信堂.
椿明美(他5名),2009,「卒業生に対するリカレント教育とキャリア支援の改善について―事前調査の結果を中心として―」『札幌国際大学紀要』第40号,141-153頁.
濱中義隆,2008,「学生の流動化と進路形成−現状と可能性−」『高等教育研究』玉川大学出版部,第11集,107-126頁.
韓民,1996,『現代日本の専門学校―高等職業教育の意義と課題』玉川大学出版部.
文部科学省,2010,「専門学校卒業生のキャリア形成と専門学校教育に対する評価実態調査」.
吉本圭一,2009,「高等職業教育の体系化と専門学校」『大学論集』第40集,199-215頁.
吉本圭一,2010,「大学教育のキャリア形成にかかる遅効性」吉本圭一編『柔軟性と専門性-大学の人材養成課題の日欧比較-』『高等教育研究叢書』,第109号,広島大学高等教育研究開発センター,37-55頁.
吉本圭一編,2011,『非大学型高等教育と学位・資格制度-国際ワークショップ報告-(平成21~24 年度文部科学省科学研究費補助金基盤研究(A)ワーキングペーパーシリーズNo.1)』.
吉本圭一,2012,「大学教育と労働力市場の適切性-日欧卒業生調査から-」(中国語)『北京大学教育評論』第1号,72-90頁.

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